デジタルでの焼きこみ処理

写真を初めて30年以上になるが、最も感銘と同時にショックを受けたセミナーは、アンセル・アダムスのテクニカルスタッフであったジョン・セクストンの講習会だった。ヤマハホールで開催されたこの講習会は、金額も高価で15,000円だったと記憶している。なんとも高い講習会だと思って参加したが、天下のアンセル・アダムスの技術スタッフだった人だからと期待を胸に参加。内容は金額だけのことはあり、アンセル・アダムス作品の作業過程をスライドで順を追って解説もしてくれた。驚いたのは、その写真の違い。つまり、撮影をしてストレートでプリントしたものと、仕上げの作業を経た作品では雲泥の差があったのである。覆い焼きや焼きこみを繰り返し、プリント作業では40工程を優に超え、現像処理からプリントに関するイメージも撮影時にほぼ完成しており、作業は完成したイメージに向かって徐々に形になっていくということをスライドで公開してくれたのであった。勿論、私自身の作品を仕上げるときにも覆い焼きや焼きこみはしていたが、アンセル・アダムスが、これほど緻密な作業を繰り返していたとは思ってもいなかっただけに衝撃的だった。

時は過ぎ、現在はデジタル主流の時代。今までのプリント作業と同じ名前のツールが画像処理ソフト「フォトショップ」に機能としてついているが、使い始めはなんとも違和感があった。その最たるものは、焼きこみ・覆い焼きツール。フィルムカメラの焼きこみ・覆い焼きと仕上がりがまるで違うのである。何度も繰り返し作業するが、どう仕上げてみても違和感が拭えない。レイヤーを作成して、中性色で塗りつぶしレイヤーを作成して濃度を上げたり、塗りつぶしレイヤーを作成したりしたが、理想的な焼きこみのイメージとまではいかなかった。試行錯誤を繰り返し、レイヤーマスクの使い方や自分自身の処理技術が向上したこともあり、辿り着いた「写真の秘訣」がモノクロレイヤーを作成して、マスクでトーン調整する方法だった。この処理方法を単独で使用しても良いが、他のレイヤーとの組み合わせでより美しい焼きこみが完成する。正に、今までのフィルムカメラで焼き込むよりも理想的に近い形の処理ができる。この処理方法を見出した時の感動は、写真冥利につきるといってもいいかもしれない。写真は実験の芸術だから、新しいことにチャレンジすることでより多くの体験ができる。だから、写真は面白い。(今回は、専門用語が多く分かりにくい方も多いと思いますが、解説動画を添付していますので動画を見て参考にしてください。)